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通勤電車
 夏の夕暮れ時。空はどんより緑色。古ぼけた駅。行き交う電車。疲れ切った人々。学校からの帰り。ベンチに腰掛けて僕は今日も本を読む。電車を待ちながら本を読む。何度も何度もくり返し読んだ本だけれど題名も内容もすっかり忘れてしまった。
 僕は電車を待っている。僕は時計を見る。僕は立ち上がる。本を閉じて立ち上がる。アナウンスが聞こえる。来る。
 電車が来る。電車が来る。電車が来る。電車が来る。学生服を来た(僕と同じ学校?)男子生徒と目が合う。僕を見て驚きを隠せないように目を見開く。僕の鞄が手から落ちる。僕はにっこり微笑む。電車が来る。一歩一歩ホームを進む。その先は線路。電車が来る。僕はそのまま進み続ける。電車が来る。
 いつも記憶はそこで途切れる。
 僕は又ベンチに座って本を読む。
 何故、僕はここにいるのか。何故、毎日毎日同じことをくり返すのか。分らない。考えたらいけない事なのだ。きっと。僕の時間はいつも夕方。このベンチが僕の場所。唯一の僕の場所。
 そうして又夕方。電車が来る。僕の時間がやって来る。
 女の子の悲鳴が聞こえる。時々、本当に時々だけれど悲鳴が聞こえる事がある。
 けだるい時間。電車を待つ。本を読みながら電車を待つ。花束。突然花束が僕の座っているベンチに置かれる。驚いて視線をあげる。いつかの男子生徒。回りにいる友達が何か言っている。ホームにいる何人かの人達が不思議そうに見ている。
 目が合う。今度は僕が驚きを隠せないように目を見開く。男子生徒は笑っている。ように見えた。いつかと逆だな。と少し思う。電車が来る。
 僕は立ち上がる。綺麗な花達。赤、白、黄色。僕は花が好きだったかな?電車が来る。
 後で考えよう。電車が来る。僕の足は中を踊る。電車が来る。
 僕の時間はまだ終わらない。
トラベルミン