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左巻き
 好き。好き。好き。好き。好き。好きなのに。
 告白をして来たのは向こう。不思議な顔をする僕。だって僕らは……。からかわれているんだとその場を立ち去ろうとした僕の腕を掴んだ彼。喋った事なんて無かった筈なのに。廊下や食堂で時々見掛ける位の仲。僕はあまり誰とも喋らない。凄く要領が悪いからベルトコンベアの流れについてゆけない。いつも主任に怒られる。仕事辞めたいな。でも辞められない。でもやっぱり辞めたいな。でもこれからどうしよう。ぐるぐる考えて。考えて。考えて。考えて。考えて。そうして又ベルトコンベアの流れについてゆけなくて主任に怒られる。主任は嫌い。大嫌い。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。そうして又ベルトコンベアの流れについてゆけなくて主任に怒られる。皆僕の事を鈍くて馬鹿な奴だと思っている。どうでも良い。どうでも良い。どうでも良い。どうでも良い。どうでも良い。僕は考え過ぎる所があるって誰かが言ってたな。他にも色々。お手洗いでだっけ?僕が入って行ったら急に皆黙ってしまって気まずい雰囲気。何だか僕は悪い事をしてしまったような気がして気まずかった。相手の方が気まずい筈なのだけれど。名前も知らない彼。多分、営業をしているんじゃあ無かったっけ?僕のいる場所の人達とは作業着の色が違うから。他は知らない。詳しく知らない。全然知らない。誰にも言えない。言う相手もいない。お前ここに入って何年経ったと思っているんだよ。やっぱり馬鹿だよな。そう言われるに決まってる。しんどいな。僕、全然あなたの事を知らないんですけど。ご免なさい。他、当って下さい。俺は。お願いだから。だから付き合って下さい。変なの。何を言っているか分からないよ。男の癖に涙なんか流している。男は産まれて二度しか泣いたらいけないってお婆ちゃんに教わった僕は少し軽蔑。僕は少し博識?もう行って良いですか。他の人に迷惑がかかるから。つかまれた腕に力が込められる。痛いよ。何。あんた。別に僕で無くても良いだろう。ここには色々な人が沢山いるんだから。僕はもう色々考える事が多くてもうこれ以上は頭がパンクするよ。だから。放して。ねぇ、からかっているんだよね。僕そういうの苦手なんだ。笑えないよ。こういうの。辛いよ。こういうの。僕だってそうは見えないのかも知れないけれど一生懸命やってるんだよ。色々。でも全然駄目なのはどうしてかなぁ。好きとかそう言うのでからかうのは酷いよ。あぁ。主任怒っているんだろうな。皆呆れているんだろうな。仕事が遅い癖にサボっているって。違うよ。違うのに。もう戻らないと本当にまずい。本気だよ。どうしてからかっているだなんて言うんだ。君を食堂で見掛けて。いつも窓際の席にいるよね。あそこは椅子も机も汚くてあまり座りたがる人なんていないのに。そうしていつも窓の外を見ているよね。景色、綺麗かな?不思議で。だってあそこの窓から見える景色。流れている川はいつも油と廃液で色とりどり。たまに魚の白い腹。何だか分からない植物。蠅がたかっている何かの死体。空の色はいつも緑。そういう物しか見えないだろう。不思議で。いつも無表情で。そこに引かれて。いつも君を見ていたんだけれど君は俺の方を一度も見てくれないから。だから話し掛ける機会とか無くて。俺の部署とも仕事が終わる時間が違うし。出勤時間も違うし。だから仕事中だったんだけれどいきなり呼び出して。本当にご免。少し考えてくれないかな。俺本気だよ。嘘じゃあ無い。嘘じゃあ無い?皆そう言うよ。そうしてやっぱり嘘なんだ。そういうのもう良いよ。他にする事無いのかな。僕をからかうのって面白いのかな。何だか一寸泣きたい気分。どうして信じて貰い無いんだ。腕が痛いよ。いいかげん放してよ。俺は君が好きだと言う事を君に伝えたかっただけだよ。どうして信じて貰えないんだ。腕が痛いよ。じんじんして来た。本当にもう戻らないと。分かったよ。考えておくよ。だから返事は今度で良いかな。うん。有難う。良い返事が聞けると嬉しいんだけれど。緩められる腕。急いで持ち場へ向かう。がたつく扉を開けると皆の冷たい視線。主任は完全に僕を見ない振り。こそこそと聞こえる声。いつもの事だけれどやっぱり馴染めないよ。あの人の言う事は本当なのかな。だったら嬉しいな。嘘じゃ無かったら嬉しいな。僕の事を良い風に見てくれている人がいたよ。凄いね。誰かに言いたいな。でもやっぱり嘘だった時に恥ずかしいから誰にも言わない方が良いのかな。嘘じゃ無いと良いな。だったら良いな。もしも嘘でも今はまだ嘘だって分からないから本当だと思って良いよね。今だけでも。次々と流れてくる部品。本当だったら嬉しいな。考えたら駄目だ。部品の事だけを考えないと。この部品面白い形をしているな。何に使うんだろう。
 そうしてやっぱり主任に怒られた。
トラベルミン