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踊り監視員
 ダンスホール。
 島の天候を左右するのは彼女達の踊りだ。高い高い塔の上。俺は踊り監視員。
 最近入った娘達はまだまだぎこち無い動き。少し微笑ましい。
 年期が入った娘達は踊り過ぎて足の先がグチャグチャ。くるくると可憐に回る度に肉片がきらきら宙を舞う。
それを集めて月に一度やって来る業者に売る。それを瓶に詰めると踊りの元の出来上がり。踊りの下手な人も可憐に踊れる魔法の薬。紳士淑女の集う祝賀会には欠かせない。娘達に痛み止めを注射したり点滴をしたり。それでも娘達は笑顔を絶やさない。先輩としての自尊心がそうさせるのだろうか。それとも踊る事が本当に楽しくて仕方が無いのだろうか。くるくるくるくる。観客は俺たった一人なのに。これを見る事の出来無い人達は何て人生を損しているんだろう。くるくるくるくる。音楽に合わせて可憐に踊る。今日の音楽は雨の踊り。
 それを打ち消すかのような不細工なブザーの音。交代の時間。次の監視員がドアを開けて入って来る。挨拶を交わしてタイムカードを押す。ガシャンと小気味良い音を立ててカードに時間が刻まれる。塔の中にある粗末な宿舎へと向かう。ドアのが閉まる瞬間まで雨の踊りの曲。今日も一日働いた。うんと延びを一つして肉片が一杯詰まったタッパーを抱えて部屋へと向かう。いくらで売れるかな?綺麗な綺麗なダンスホールと違って監視員達の部屋は狭くて窓も無い小汚い部屋。ベッドと小さな冷蔵庫と小さな箪笥。それだけ。風呂とお手洗いは共同。冷蔵庫にタッパーを大事にしまい込んでくつろいでいると食事の時間を告げる音の割れた放送。「……しょクじじじ……の…ォ……じ……じじじ時間で……ス」
 監視員は俺も入れて全部で5人。今勤務をしているカワモトさんを除いた四人で踊子達の話で盛り上がる。
「そう言えばナナコさんは来週当たり処分をされるそうだよ」
 悲しいお知らせ。食堂の入り口の張り紙にそう記されてあったそうだ。処分。
「新しい娘が入ったからな。今度の娘達はどうだろう。髪の毛が長いあの娘はあまり踊りが上手じゃあ無いね。再来月までに上達をしなければ上に連絡をしないとね」
 それで処分。
 使い捨ての彼女達。
 来週の衣装が受け付けに届いていたそうだ。それと痛み止めと点滴各種。
 皆、情報が本当に早い。
「黄色い衣装だったよ」
 ナナコさんには水色の衣装が一番似合うのにと少し残念。彼女の踊りも来週で見納め。少し残念。
 業者が来ていたのだったら教えて欲しかった。
 肉片が悪くなってしまう。
トラベルミン