針金の檻
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やっと出口。明るい場所。 目の前に広がる針金で出来た檻の隙間からは青い空と白い砂浜。隣は家具屋。おかしな場所。何だかとても不自然な。 やっと出口。小さな扉。ほんの少しの時間だけ空いている扉。一分足らず。 集まる人々。扉が開く。 扉に群がる人の群れ。必死でかき分け狭い扉をくぐる。 やっと身体を全部外へ出した瞬間、重たい音を立てて扉が閉まる。扉の向こうから悲痛な声。絶望に満ち満ちた。後は振り返らない。仲の良かった友達と呼べる人もいたのだけれど考えない。 そうして顔を上げる。希望に満ちた自由を全身で感じる為に。砂浜に駆け寄ろうと立ち上がる。そうして絶望へとたたき落とされる。 目の前に広がる針金で出来た檻。隙間からは青い空と白い砂浜。隣には家具屋。 何度目だろう。何度扉をくぐり抜ければ本当の外へ出られるのだろう。 隣の家具屋の裏庭には汚い船。あそこに住まうのは家具屋の婦人。丸まると太った下品な女。船の下には汚い緑色の水をたたえた小さな池がある。そこには大きな錦鯉が三匹。以前見た光景。裏庭へと迷い込んだ男。その時物凄い水音。丸まると太った錦鯉が池から飛び出した。男の何倍もある巨体。男はすんでの所で身をかわす。錦鯉は裏庭の下の田んぼに転げ落ちる。次々飛び出す錦鯉。次々転げ落ちる錦鯉達。男は何も言わずに庭を去った。 出口を探す。探す。探す。奇声が聞こえる。この牢の中で命が絶えると化け物になる。人の肉を喰らう知性の無い化け物に。化け物になるとだんだんと退化する。ずっと以前にここで行方不明になった少女はなめくじになってしまったと聞いた。殺しても殺しても蘇る。その少女の恋人だった女に聞いた。大きななめくじ。白いなめくじ。ぬらぬらと巨体を無気味に光らせて。女は大きな刃物でその巨体を切り裂いた。ぶるぶると巨体を震わせて絶命する。でもしばらくくすると蘇る。何度でも。何度でも。 外へ出たい。出たい。出たい。逃げる。逃げる。逃げる。扉の開く時間まで生き延びる。生き延びなければ。 やっと出口。小さな扉。ほんの少しの時間だけ空いている扉。一分足らず。 集まる人々。扉が開く。 扉に群がる人の群れ。必死でかき分け狭い扉をくぐる。 今度は余裕を持って扉をくぐり抜ける事が出来た。 そうして顔を上げる。 |