骨片
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「君の肉は絶望の味がする」 僕の腕を食べる君の一言。少し腹を立てる僕。僕は永遠に右腕を失ってしまったと言うのに文句を言うだなんて。 「嘘でも良いからせめて僕の見ている前では美味しそうに食べてくれよ」 思わず苦笑い。そうして口をついて出てしまう言葉。 口の回りを真っ赤に染めて声を潜めて笑う君。僕から離れた僕の右腕。何だか不思議な気持ち。君は器用に食べてゆく。徐々に骨が顔を覗かせる。君が食べ終えた後の骨は僕が貰う事になっている。 「食べても良いけれど骨は返してくれよ」 何と無くかわした約束。僕はもう余り残っていない。ほとんど君にあげてしまったから。小さな頃からずっと路地裏で暮らす僕。声を掛けて来たのは君。淀んだ空気と疲れた人々。緑色の空。こぼれ落ちそうなほど首を一杯に積んだ荷車を押す老女。 僕の持ち物は鞄が一つ。中味は僕だった骨と干し果物が少し。歩く度にカラカラと乾いた音がする。君は僕の知らない色々な話を聞かせてくれる。ここで無いどこか違う場所の話。正直余り話が上手で無い君。でも興味深げに聞くふりをする僕。楽しそうに話す君の顔を見ているのが好き。美味しそうに僕を食べる君の顔を見ているのが好き。 食事が終わった君は手を振りながら町へと掛けてゆく。いつものように。 そうして僕は路地裏に一人。僕だった右腕を手に取る。ほんの少し食べ残しの肉片の付いた僕の右腕。濡れたような感触が嫌な感じ。良く晴れた日に良く洗って日干しをしようと考える。それ以外の事を考えないように努力する。血と肉の臭い。 僕を一人にする君は嫌い。名前も知らない君。僕が無くなる前に名前位は教えてくれると良いのだけれど。 |