INDEX BACK
サイコロの部屋
 最近、目が覚めるといつもこの部屋。この場所にいる。白くて赤い真四角くの部屋。壁は白いのだけれど床は赤い部屋。なんとなくサイコロに似ている。ずっと以前はこことは全く違う別の部屋で目が覚めていたような気がすのだけれどはっきりとは思い出せない。でもきっと違う部屋だった。そう、絶対。そうしてそこも壁は白くて床は赤かった。
 目が覚めて起き上がろうとするとお馴染みの足音。赤い人がやって来る。神経質そうな嫌な足音。僕はい人が大嫌いだ。勘に触る足音も嫌いだし僕が床から起き上がる前に部屋のドアを開けて文句を言うのもっと嫌い。ずっとずっと以前に赤い人の一人が教えてくれた名前も嫌い。だから覚えなかったし絶対に覚えない。
 ギギギと軋んだ音を立てながら重たい鉄の扉が開く。鉄の扉はペンキで雑に塗られている。壁の白さからは程遠い汚い色。
 いつものように髪の毛をグィと引き上げられる。
 痛い。
 痛い痛い痛い。
 泣いても叫んでも無駄。それはずっと前に覚えた。覚えたくなかったけれど覚えたよ。
 ああ痛い。痛い。痛い。
 赤い人はとても乱暴だから全員嫌い。嫌い嫌い嫌い。真っ白な部屋は僕の中身で汚らしく汚れゆく。そうして生臭い臭い。始めは白くて綺麗壁だったのに。本当に遠慮が無い。勿体無いなぁ。
 
 そもそも僕はどうしてここにいるのかな。余り考えた事は無いのだけれど一度だけじっくり考えた事がある。でもね、分からなかった。考えても考えても考えても全然わからなくて息が詰まりそうになったからもう考えるのをやめた。それ以降考えない。
 痛い痛い痛い。
 僕の髪の毛が束になって抜ける。目が見えない。身体中が痛い。痛い痛い痛い。痛いよう。
 赤い人の白い手。綺麗だなと思う。
 赤い人の顔。ぐしゃぐしゃに崩れた顔。泣いている。大人なのに変なの。
 赤い人は声をあげて泣いている。
 あぁ。痛い痛い痛い。
 そうしてやがて耳障りなサイレンの音。延々と鳴り響く。いつも同じ時間。律儀に鳴り響く。痛いのが終わる時間。
 サイレンの音が鳴り止むと赤い人は突然バラバラになってべちゃりと嫌な音を立てて崩れ落ちる。真っ赤に染まる冷たい白い床。血と腐肉と砕けた骨片の中僕はいつものように途方に暮れる。
 赤い人が何者なのか僕は知らない。この白くて赤い部屋が何処なのか何なのか僕は知らない。しばらくすると赤い人じゃあ無い人がやって来て赤い人を片付ける。ギギギとそうしたらいつもの白くて赤い真四角くの部屋。ギギギと軋んだ音を立てながら重たい鉄の扉が閉まる。
 鉄のドアの向こうには一体何があるのか。
 それは決して考えてはいけない。僕は他に確信を持って信じられる事は一つも無いのだけれどそれだけは分かる。
 しんと静まり返った無音の部屋で僕は眠りにつく。
トラベルミン