さようなら森の人
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目を開けると粗末な服と弓を片手に大きな木の側に立っていた。ぐるりと回りを見渡す。 そこは深い深い森の中。何だか神聖な場所。 自分はもう恐らく小さな子供じゃあ無くて大人で、自分の意思を持っている。 でも、分かるのはそれだけ。 ぐるりと辺りを見渡す。回りに沢山の人達がいる。 男と女(教えて貰った訳じゃあ無いけれど何故かそれが何であるかも理解している)がいる。物凄く違和感がある。男と女。その区別しか出来ない。一人一人を区別する事が出来ない。皆同じ服を着ていて同じ 髪型をしている。身長や体系、良く見ると顔まで全く一緒だ。 くらくらするのでその事を考えるのをやめた。 のろのろと粗末な服を身に着ける。木の皮で出来た服。下着無しで身に着けるのはとても抵抗がある。でも下着が無いのだから仕方が無い。素っ裸よりマシだ。想像以上にゴワゴワしていて正直物凄く着心地が悪い。動く度に何だかチクチクと痛い。 何をして良いのか全くわからない。でも、とにかく行動してみる事にした。 その人達は無言で大きな木に向かって何かをしている。その人達の中には男も女もいる。大勢の人達がしている行動なのだから何らかの意味がある筈だ。自分もしなければならない事かもしれない。 「あの、すみません……」 自分の声を初めて聞いた瞬間だった。思ったより変な声じゃあ無い。本の少しの安心。 「…………」 返答を待ってみたけれど、無視されてしまったようだった。何故かはわからないけれど何かがいけなかったのだろう。何がいけないのかは全然わからないけれど。 何とも居たたまれない気持ちになってしまったのでその場を離れる事にした。 あてずっぽうに歩き回る。青い人と赤い人。それ以外の人がいる事を知った。でもその人達は何度話し掛けてもそれぞれ同じ事しか言わない。悲しいけれど、その人達が何を言っているのか自分には全く理解出来なかった。 ここには本当に沢山の人達がいるのに自分は全くの一人だ。 森へ出てみる事にした。何か分かるかも知れない。自分に足りない何かが。それはきっと大切な事。大切な事の筈。 不思議な形をした獣がいる。キラキラと飛んでいる妖精がいる。歩く木がいる。上手く表現する事は出来ないけれど幻想的でとても綺麗だと思った。それを横目に歩く自分。そうしてそんな綺麗な生き物とは明らかに違う醜い生き物がいた。ア! そうか。多分これを殺したら良いんだ。何故かそう感じた。本能って奴?粗末な弓を構える。心臓がドキドキする。たどたどしく矢を放つ。獣が悲鳴をあげる。あぁ。自分は今、とても良い事をしているんだ。これで少しは皆と一緒になれるのかな? 良い気持ちになる。でもでもでもね。そんなに事が上手く行く筈が無くて。獣は思ったより強かった。強かったよ。自分の血が舞う。痛い痛い痛い。必死で矢を放ったんだけれど全く当らなくて。明後日の方角へ飛んで行く矢。こっちから手を出したんだから仕方が無い事なんだけれど、一寸は手加減してくれても良いのにな。何とかしとめる事が出来たけれど身体中痛くて痛くて痛くて。醜い獣の流した体液が物凄い臭いを放っていてその死骸の呪うような暗い瞳と目が合って。 何かが分かった? 自分に質問。考える。考えてみる。自分に解答。……全然何も分からない。 |