特に何をするでも無く。
何故、毎日僕はここに来てしまうんだろう。
ふらりと立ち寄った店。支払いを済ませて店を出ようとしたその時、僕と入れ違いに店に入る男達の会話が聞こえた。
「自分と全く同じ姿をした化け物が出る場所があるんだ」
一体何だろうそれは。思わず立ち止まる。盗み聞きは良く無いんだけれど何だかとっても気になった。
「そいつらはとても強くて危険なんだよ」
へぇ。
それは全くの興味本位だった。地図を片手に一人。(いつものように)
鬱蒼と茂る木々。薄暗い場所。静かな場所。不自然な程に。小鳥のさえずり一つ聞こえない。僕が歩く度に草を踏みしだく音が聞こえる。何だか心細くなって来る。いつも一人なのに。いつだって一人なのに。そんなのはとっくに慣れている筈なのに。どんどん心細くなって来る。歩いても歩いても全く景色が変わらない。
同じ場所をぐるぐると回っているのだろうか。
ずっと歩き続けていて疲れがたまっている筈なのに、そんな事はどうでも良くって。でも何故だか元来た道を引き返そう。という考えは起こらなくて。
歩く。歩く。歩く。歩く。歩く。
草を踏みしだく音だけが聞こえる。
でも、やっぱり歩いても歩いても歩いても全く景色が変わらない。
同じ場所をぐるぐると回っているのだろうか。
不安が恐怖へと不気味に変貌を遂げ始める。あぁ、あぁ、あぁ、どうしよう。
本当に、どうしよう。身体が熱を持ってくる。
ふと立ち止まる。草を踏みしだく音。人の気配がする。少し緊張がほぐれる。
でも現れたのは…。
僕とそっくりの人。鏡に映った姿そっくりの。
僕がゆっくりと歩いて来る。僕の方に近づいて来る。
全くの無表情で。抜き身の剣を片手に静かにゆっくりと近づいて来る。
草を踏みしだく音。
これはまずいのか。どうなのか。思わず立ちすくむ。
目の前までやって来た僕は迷う事無く僕に向かって剣を振り上げる。
何が起こっているのか一瞬理解出来なかった。理解出来た時には剣が振り下ろされた後だった。
反射的に庇った腕を斬りつけらる。パッと血が飛び散る。
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
痛いんだけれど僕は魔法を唱えて僕に向かって放つ。焦げくさい臭い。でも僕は全くひるまず剣を振り上げる。必死で魔法を何度も放つ。僕はどんなに肌が焼けただれても全くひるまない。全然変わらない。無表情で僕に向かって来る。
醜く焼けただれた顔。醜く焼けただれた体。焦げくさい臭い。
何度も何度も斬りつけられる。
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
必死で魔法を何度も放つ。
その度僕の体は見るに耐えないおぞましい姿になる。吐きそうになる。
悲しげで小さな悲鳴をあげて僕はグシャリと崩れ落ちる。崩れ落ちた体は粘り気のある嫌な臭いのする液体に変わった瞬間、まるで最初からそこには何も無かったかのように消えた。
僕は呆然と立ちすくむ。体中から力が抜ける。手から杖が落ちる。その場に膝から崩れ落ちる。
「自分と全く同じ姿をした化け物が出る場所があるんだ」
「そいつらはとても強くて危険なんだよ」
何だか自で自分を殺してしまったようで。
僕には僕しかいないのに。その僕を僕自身の手で殺してしまった。
さっきの僕は化け物なんだ。決して僕自身じゃあ無い。だから僕自身をを殺した訳じゃあ無いんだ。無いんだ。無いんだ。無いんだ。無いんだ。無いんだ。無いんだけれど。
心の中で言い聞かせる。僕が死ぬ間際にあげた悲しげで小さな悲鳴が頭の中で何度も聞こえ続ける。
僕には僕しかいないのに。
何故、毎日僕はここに来てしまうんだろう。
僕は一体何を期待しているんだろう。
僕は一体何に期待しているんだろう。
もう今日は帰ろう。何だかもうこれ以上ここにいる気分じゃあ無い。
さようなら。
暗転。
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