早朝。カーテンの隙間から光の筋。
寝ぼけ眼で洗面所で顔を洗って台所へ行く。いつものようにパジャマのまんまで。
「母さんおはよう」
いつものように母さんに挨拶をする。
「ユウちゃん、お兄ちゃんにおはようの挨拶は?」
「え? 僕に兄弟なんていたっけ?」
「え? ユウちゃんあなた一体何を言っているの?」
母さんが不思議そうな顔をしてクククと笑う。優しく笑う。僕の母さんはこんな笑い方をしたっけ?前からこんな笑い方をしたっけ?
「今日はパジャマのまんまだなんて珍しいわね」
台所のテーブルには椅子が四つ。
父さんと母さんと僕と……兄さんの分。
父さんの顔は新聞を読んでいて見えない。
テレビの画面にはいつものように陰惨な事件。
「おい、ユウ、今日はお前何だか変だぞ」
兄さんの言葉。
「本当だね。どうしちゃったんだろう」
「まだ目が覚めていないんじゃあ無いか」
兄さんが笑いながら言う。
頭をボリボリ掻きながら僕は席に付く。
いつもの朝の風景。毎日繰り返されている風景。
朝食を食べ終わる。母さんの料理はとても美味しい。
父さんはまだ新聞を読み続けている。
時計を見る。
「そろそろ着替えないと遅刻してしまうな」
僕が席を立とうとする。
兄さんが僕の腕を掴む。驚いて兄さんの顔を見る。
何だかとっても必死な顔をしている。
「今日は、日曜日だろう」
「あ、そうだっけ」
僕はもう一度席に座りなおす。
朝日がとっても気持ちが良い。
「ユウちゃん。お兄ちゃん、コーヒー飲む?」
母さんがクククと笑いながら聞く。
「僕はコーヒー飲めないから良いよ」
「何を言っているんだ?お前毎朝飲んでいるじゃあ無いか」
…芳紀そうだったっけ。
「じゃ、入れるわね?」
父さんはまだ新聞を読み続けている。
「ねぇ、父さん、今日何か面白い番組ある」
僕が何気なく父さんに話掛ける。
父さんは何も答えない。
「さ、二人共、コーヒー入ったわよ」
コーヒーの良い香りが立ちこめる。
兄さんといつものようにたわいも無い話をする。
いつもの朝の風景。毎日繰り返されている風景。
いつもの朝の風景。毎日繰り返されている風景。
いつもの朝の風景。毎日繰り返されている風景。
いつもの朝の風景。毎日繰り返されている風景。
いつもの朝の風景。毎日繰り返されている風景。
「さ! ユウ、歯を磨いたら俺の部屋でゲームでもやろうぜ」
兄さんが僕の腕を掴んで立ち上がらせる。その力はとても強くて。
「痛いよ。兄さん」
更に力が込められる。
「痛いって」
その光景を見つめながら母さんが幸せそうにウフフと笑う。
父さんはまだ新聞を読み続けている。
兄さんの部屋。一瞬始めて来た場所のような気がしたけれどここは見慣れた兄さんの部屋だ。
ゲームをしたり漫画を読んだりたわいも無い話をしたりゆったりと時間が流れる。
「そろそろお風呂に入って来ようかな」
僕は立ち上がろうとする。
兄さんは僕の腕を掴んで無理矢理座らせる。
「何を言っているんだ? まだ朝だぞ」
かなり時間がたったような気がしたけれど時計を見るとまださっきから全然時間がたっていない。
朝食しか食べていない筈なのに全然お腹が空いていない。
ああ、そうかまだ朝なんだ。
何だか微妙におかしい。
「違うッ! 何もおかしい事なんて何も無いッ!」
突然兄さんが語気を荒げて言う。
何故僕の思った事が分かったんだろう。
「ユウ、どうしたんだ一体。今日はおかしいぞ? 熱でもあるんじゃ無いのか」
僕の額に手を当てる。
「熱は無いみたいだな」
優しい顔で兄さんが笑う。
何だか微妙におかしい。
兄さんが僕に口付ける。
そのまんま二人とも絨毯の上に倒れ込む。
「ユウ」
兄さんの甘い声。
兄さんの手が僕の体に優しく触れる。
「ユウ」
兄さんが僕に口付ける。
何だか微妙におかしい。
「ユウ」
兄さんの手が僕の体に優しく触れる。
思わず声が出てしまう。僕は真っ赤になる。
兄さんが優しく笑う。僕を優しく抱き締める。
何だか
何だか
何だか
何だか
何だか
でも、それが何だか分らない。分らないんだけれど。
「知りたいのか?」
兄さんが言う。
「どうしても知りたいのか?」
僕は少し考える。僕は考えるのがとても苦手で、僕は馬鹿だから、とても馬鹿だから。そう皆に言われ続けていたから。ずっとずっと言われ続けていたから。
「そんな事は無いよ」
兄さんが僕の頭を優しく撫でる。
「ユウは全然馬鹿じゃあ無いよ。俺の自慢の弟だよ。ユウ以上の弟なんてこの世に存在しないよ」
兄さんが僕に口付ける。
「存在する訳なんて、無い」
僕は嬉しくて本当に嬉しくて。そんな事今まで言われた事無かったから。これからも言われる事は無かっただろうから。
「知りたく無いよ。全然」
僕は答える。
「父さんと母さんと兄さんと僕と皆と一緒が良い」
兄さんは優しく笑う。つられて僕も笑う。
兄さんが僕を優しく抱き締める。
優しい時間が流れる。
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