夕刻のオレンジ
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家族からいらないと言われて遠い親戚に預けられる事になった。 まず、自分の持ち物の整理をした。着替え以外は何も無かった。 学校の先生や友達にさようならを言おうと思った。 朝早くに学校に行くと先生がいたから、挨拶をしたけれど、目を合わせてくれなかった。 「いままでお世話になりました」 笑顔で言ったけれど、やっぱり目を合わせてくれなかった。 「……君が転校する事になりました」 朝の会で先生にそう言われて、少しドキドキしたけれど、朝の会が終わった後、いつもと一緒で、誰も話しかけて来る人はいなかった。 最後の日位、授業をサボってやろうか。と、考えたけれど、最後まで授業を受けた。 ふぅ、と溜息をつく。 最後の日位、寄り道して帰ろうか。と、考えたけれど、真っ直ぐ家に帰った。 「ただいま。」 滑りの悪い戸をガラガラと開くと玄関先で母が電話をしていた。 「でも、困るのよ。もう、決まってしまった事だからねぇ」 「ええ、ええ。兄さんの言い分は分かるのよ。とても分かるの。分かるのよ。でもねぇ。もう決まってしまった事だからねぇ」 その声を後に自分の部屋へと向かう。部屋に入る。 兄のお下がりのランドセルをドサリと床に置く。 窓の向こうはオレンジ色の光。 綺麗だな。と無理矢理思う。 母の電話をする声が聞こえる。 何も考えたく無い。 親戚の人が良い人だと良いな。無理矢理思う。 ふぅと溜息をつく。 溜息がキラキラとオレンジ色の小さな結晶になって薄汚れた絨毯の上にポロポロと落ちる。 もう一度、ふぅと溜息をつく。 チチチ、チチチ、チチチ。結晶が降り積もる小さな音が心地良い。 ふぅ、ふぅ、ふぅ。 チチチ、チチチ、チチチ。 オレンジ色の結晶を手の平に集めて部屋中に撒き散らす。チチチ、チチチ、チチチ。 床一面が窓から差し込むオレンジ色の光を受けてキラキラ光る。 突然部屋の戸が開く。 「ねぇ、ちょっと、電話に出てくれな……」 振り返ると母はオレンジ色の小さな粒の塊になっていて、次の瞬間部屋中がオレンジ色に包まれる。 チチチ、チチチ、チチチ。 「叔父さん? うん。そう。僕だよ」 「母さん? 今、死んじゃったよ。本当。うん。……良く分からない」 「多分、死んだ……と思うんだけど……。うん。……本当に良く分からないんだけど。多分」 「……うん。…………うん、うん。分かった」 電話を切る。 時計を見る。兄さんと父さんも帰って来る。 玄関に向かってふぅ。と大きく溜息をつく。 ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ。 チチチ、チチチ、チチチ、チチチ、チチチ、チチチ、チチチ、チチチ。 叔父さんが優しい人だと良いんだけれど。良いんだけれど。良いんだけれど、な。 ふぅ、ふぅ、ふぅ。 チチチ、チチチ、チチチ。 |