駅
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二人で手に手を取って逃げ出した。 とにかく最悪な毎日だった。全部壊して逃げ出した。二人で壊して逃げ出した。全部全部全部。 電車に乗って二人きり。色んな電車を乗り継いで遠くへ遠くへ。そうして降りた駅。二人は文字を読む事が出来なかったからここがどこだか分からない。 古い木造の駅。湿った空気。薄暗い照明の周りを虫達が舞う。塗装の剥げた駅名表。 「何て書いてあるんだろう?」 「……読めないね。読めた方が良いのかな?」 二人は文字を読む事が出来無い。二人は笑う。ここがどこだって良かった。 「お金、ある?お金、いるんだよね?」 「大丈夫」 幼い二人には全くの不釣合いな年配の女性が持つのがピッタリなデザインの真っ赤な鞄。 「ほら」 照明を反射してキラキラ光る金の金具をパカリ。鞄を開ける。中にはお札が一杯。 欠けた月。木々のさざめく音。虫の鳴き声。舗装されていない山道。朽ち欠けた家々。 明かりが見えた。二人の歩みが早くなる。 何も無い場所に不釣合いな瀟洒な建物。 何て書いてあるか分からない看板。ドアを開けるとカランと音がした。 「いらっしゃいませ」 かすれた女の声。気だるげな音楽。人々の気配。暗めの照明。コーヒーの香り。 二人は空いている席に吸い寄せられるように腰掛ける。そこだけ空気が変わったように感じた。傷だらけのテーブルには見た事の無い生き物の置物が置かれている。恐る恐る触ってみる。生暖かい感触。 「これ、生きてるよ」 「ふぅん」 「本当に生きてるよ」 「ふぅん」 周りを見渡す。人の姿をしていないシルエット達がゆらゆらと蠢いている。 置物を元の位置にそっと戻す。 「あの人達何なのかな?」 音楽が変わった。何時の間にか女が二人の席の横に立っていた。醜く肥え太った醜い身体に真っ青なドレス。暗めの照明のせいからか女の顔はぼんやりとしか見えない。 「あの人も他の人と一緒なのかな?」 音楽が変わった。 カラン 外へ出る。湿った空気。霧雨が降っている。 |