私の番ですか?分かりました。
私にはお隣の家に住んでいる親友がいました。有美子ちゃんと言います。私は有美子ちゃんが好きでした。
私は小さな頃からずっと苛められていました。
理由は汚いからです。
私のお父さんお母さんは私が小さな頃に離婚しました。家にはお父さんしかいません。お父さんは神様の会社で働いていました。毎日ゴミ捨て場からゴミを集めて来る仕事です。
お父さんは近所の人達と喧嘩ばかりしていました。
お父さんは身の回りを綺麗にすると神様から天罰が下って良く無い事が起こるといつも言っていました。正直私はお父さんが好きではありませんでした。
お父さんは気に入らない事があるといつも私を殴ったり蹴ったりしました。
私の前歯がガタガタなのはそのせいです。
前歯を見られるのが恥ずかしいので人前で喋るのはとても苦手です。
私は学校にも行かせて貰えませんでした。
有美子ちゃんのお父さんとお母さんはとても綺麗です。正直とても羨ましく思っていました。
家の中にいるのも嫌いでしたが家の外に出るのも嫌いでした。皆私の事を見てヒソヒソ話をしたりわざと私に聞こえるように悪口を言うからです。子供からも大人からも沢山色々な事を言われました。全部嫌な事です。良い事は一つも言われませんでした。
家の近所に古い公園があります。全く手入れされていない場所です。いつ行っても誰もいません。その公園の公衆便所が私のお気に入りの場所でした。歯磨きも出来るし個室でゆっくり身体を拭く事も出来ます。水飲み場で髪の毛も洗う事も出来ます。綺麗な水を飲む事も出来ます。
……変ですか?
私の家は水道や電気を止められていました。
その日はたまたま学校が早く終わった日だったのだと思います。
公衆便所で身体を拭き終わった私は公園のベンチに座って友達とお弁当やパンを食べている有美子ちゃんを見つけました。
とても楽しそうでした。会話の内容は学校の先生の悪口や芸能人の事でした。
別世界でした。
ますます有美子ちゃんの事が好きになりました。有美子ちゃんの友達の事も好きになりました。私も仲間に入れて欲しいと強く思いました。学校の話も芸能人の話も分からないけれど小さな頃はとても仲良しだったのです。今も仲良しな筈です。
「有美子ちゃん!」
小さな頃そうしたように有美子ちゃんに声を掛けました。
小さな頃。お母さんが家にいた頃です。
「コイツ誰?」
有美子ちゃんの友達の一人が私の事をじろじろ見ながら言いました。感じの悪い態度にちょっとだけカチンと来ました。
「前言ったじゃん。隣に住んでる……」
小さな声で言ったので良く聞こえませんでした。
「有美子ちゃん!私も仲間に入れてよ!」
大きな声で言いました。
私と有美子ちゃんは親友です。私は有美子ちゃんが大好きです。
その時有美子ちゃんがどうしたと思いますか?
私の方を見ようともしないでまるで犬を追い払うかのような手つきで私を遠ざけようとしたのです。
親友の私に何故そんな事をするのでしょうか?
「有美子ちゃん!私も仲間に入れてよ!」
もう一度言いました。
「……最悪。ここだったらゆっくり相談出来ると思ったのに全然駄目」
有美子ちゃんが言いました。
「ねぇ!私も行って良いよね?」
大きな声で言いました。
「えっとね……」
有美子ちゃん達はお弁当やパンを綺麗にコンビニの袋に入れました。
「走れーー!」
そう言うと物凄い早さで公園からいなくなってしまいました。悔しくて涙がぽろぽろ出ました。
家に帰って有美子ちゃんの部屋の電気が付くのを待ちました。有美子ちゃんとどうしてもお話がしたかったのです。
その日お父さんは酔っ払って帰ってきました。とても不機嫌でした。余り沢山のゴミを集める事が出来なかったようです。
私は公園で身体を綺麗にした日はお父さんと会わないようにしていたのですがその日は有美子ちゃんの事で頭が一杯でお父さんの事をすっかり忘れていたのです。
沢山殴られました。沢山蹴られました。
気が付くとここにいました。
私はどうなったのですか?
有美子ちゃんとお話がしたいのです。ゆっくりお話がしたいのです。
方法を知っている方はいませんか?
こんな話で良いですか?
何故有美子ちゃんは私から逃げたのでしょうか。
私は有美子ちゃんが大好きでした。今でも大好きです。有美子ちゃんも私の事を大好きな筈です。
私がこんなにも有美子ちゃんの事を好きなのです。有美子ちゃんが私の事を好きなのは当然な事です。
私は有美子ちゃんの事をもっと知りたいと思って有美子ちゃんの家のゴミを何度も漁った事があります。
下着や生理用品は私の宝物です。可愛い花柄の綺麗な箱に仕舞ってあります。
取りに帰る事は出来ませんか?
取りに帰りたいのです。
出来れば有美子ちゃんの事をもっと知りたい。
もしかして有美子ちゃんは良く無い友達と付き合っているのでしょうか?
そう考えれば合点が行きます。
有美子ちゃんを助けたい。助けたいのです。
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