「懐かしいわね。そうでしょう?」
「……いらないわ。私、甘い物嫌いなの。以前も言ったと思うのだけれど」
木々と雑草に覆われた寂れた展望台。雨上がりの湿った空気。
「ここに来るのは遠足以来ね」
生暖かい風が吹く。
「ずっとずっと会いたかった。そうでしょう?」
羽虫がぶうんと舞う。
「そう。私達は親友だった。そうでしょう?」
「ええそうね。そう。そういう話じゃあ無いの」
――私あなたの事が大嫌いだった。
「どうしても伝えたくて。そう、どうしても本当の事を伝えたくて」
「担任の先生にどうしてもと頼まれて。私ってほらクラス委員だったじゃない? ようするに押し付けられたのよね。あなたの事」
「私にまとわりつくあなたの事が大嫌いだった」
「皆が私の事を避けるようになった。あなたのせいで、ね」
羽虫がぶうんと舞う。
「学年が変わってやっと開放されたと思ったのに卒業までずっとずっと同じクラスだった。私泣いたわ」
「地獄だった。あなたと離れたい。それだけだった」
「一生懸命勉強をしたわ。あなたと離れるそれだけの為に」
「私の実家に頻繁に電話をしているそうね? 無駄よ。私の住所と連絡先は教えられない。絶対に」
「手紙もやめて頂戴。迷惑なの」
大きな大きな紙袋。彼女の足元に投げるように置く。
「一通も開封してないわ」
羽虫がぶうんと舞う。
「あら、その顔はなあに?」
彼女がぐちゃぐちゃに顔を歪ませて泣き崩れる。わあわあとやかましい。あの頃とちっとも変わらない。
アハハハ!笑いが止まらない。気持ちが良い。
アハハハ!笑いが止まらない。これが見たかった。
アハハハ!笑いが止まらない。ずっとずっとこれが見たかった。
「私行くわ。約束があるの。忙しいのよ。あなたと違って」
薄汚れた展望台の階段を足早に降りる。
泣き声が聞こえる。
木々と雑草を掻き分けて山道を下る。足がモゾモゾする。私の足に虫けら。
鬱陶しい。足を強く振る。虫けらがポトリと地面に落ちる。
鬱陶しい。力一杯踏み潰す。
泣き声が聞こえる。
「大丈夫? 泣かなくていいのよ。あなたは何も悪くない。ね?」
彼女はあの頃の私を待っている。
最初からいない私を待っている。
泣き声が聞こえる。
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