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異臭
 僕の身体は腐っている。
 僕自身は気付かなかったけれど、僕の体は腐っている。
 皆が言うからそうなのだろう。
 僕の身体が腐っているのならば誰も彼もが僕を毛嫌いする理由がとても理解出来る。
 一体どうすれば良いのだろう。
 僕の身体の中にギッシリ詰まった腐った腐った腐った中身を取り出して綺麗な物と入れ替えれば良いのだろうか。
 でも一体どうやって?
 考える。
 考える。
 考える。
 分からない。
 方法が分からない。
「腐った身体の中身を綺麗な物と入れ替える方法が載っている本」
 町中の図書館の本を探す。探す。探す。
 隣町、その隣町、又その隣町の図書館を探す。探す。探す。いくら探しても見付からない。
 とても特別な本だからとてもとても一般には貸し出ししていないのだろうか。
 悩んでいても仕方が無い。腐敗は確実に進行している。
 気持ちが悪い。
 コンパスの針で指の先を突いてみる。チクリとした痛みと一緒につ……と赤い汁がぷくりと浮き出る。
 恐々臭いを嗅いでみる。
 ……もしかしたらまだ間に合うのかも知れない。
 専門の人に任せた方が良いのでは無いだろうか。
 病院。……何科?
 分からない。
 分からない。
 悩んでいても仕方が無い。仕方が無いのだけれど。
 分からない。

 方法を考えてみる。

・保険の先生に質問する。
 先生や家族に連絡される。
・近所の病院へ行く。
 家族に連絡される。

 簡単に解決しようとすると駄目なようだ。(先生も家族も僕の事を嫌っている。)
 電話帳を調べる。
「腐った身体の中身を綺麗な物と入れ替えます」
 そんな広告は一つも無い。
 自分でやるしか無いのだろうか。
 一体どうすれば良いのだろう。
 そもそも綺麗な物とは一体何だろう?
 体中にギッシリ詰められる綺麗な物。
 僕に手に届く綺麗な物。僕の持っている(少ない)お金で手に入れられる物。
 花。
 花が良いんじゃあ無いだろうか。
 体中にギッシリ花を詰めれば良いんじゃあ無いだろうか。
 でも一体どうやって?
 悩んでいても仕方が無い。腐敗は確実に進行している。

 コンパスの針で指の先を突いて見る。チクリとした痛みと一緒に……真っ白で綺麗な小さな花びらがはらりと舞う。
 僕の身体には真っ白な花が詰まっている。
 僕の身体には真っ白な花がギッシリ詰まっている。
 
 放課後。真っ赤な教室。
 僕の身体が最初に腐っている事を教えてくれたクラスメイト。
「教えてくれて有難う」
 不思議そうな顔をする。
「早めに教えてくれたから」
 コンパスの針で指の先を突いてみる。チクリとした痛みと一緒に……真っ白で綺麗な小さな花びらがはらりと舞う。
「ね」
 窓の外からバシンと大きな音がする。
 身体が完全に腐り果てた生徒が絶望して飛び降りた音。
 窓の外からバシンと大きな音がする。
「お前……」
「有難う。ね」
 人と話すのは苦手だ。とても苦手だ。そのまま教室を後にする。
 早足で歩く。指の先から真っ白で綺麗な小さな花びらがはらりはらりと舞う。

トラベルミン