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時計兎の憂鬱
「うん!今日もキラキラだねアリス。カッワイイよー!」
 正直ちーっとも似合ってないけどね。いわゆるアタシ流の処世術って奴。
 高い服なんだって聞いた時は驚いた。オカネモチの家の子なのかな。羨ましいな。素直にそう思ったね。
 実はエンコーで稼いでるって聞いた時はやっぱりそんなもんかって思ったよ。
 でも、アリスなんかに金払う奴、いるんだ。って事の方に驚いたけどね。
 本当の名前はなんだっけ信江だっけ信代だっけ?
 確か信代。うん、合ってる。……筈。
 アリスだって。馬鹿みたい。
 実際、信代は変。っていうか、付き合いきれない。
 頭の中が完全に不思議の国にイッちゃってる感じ。
「でね、アリスね、死のうと思ったの。だって、コウ君、アリスの事ね、好きじゃないって言ったんだよ?アリス、コウ君の事でアタマイッパイなのに、勇気を出して告白したのに、そんなの許されないよね?」
 「そうなんだ」
「でしょ? でしょ? でね、コウ君にね、アリスのどこがイヤか聞いたの。でもね、絶対ダメなんだって。どうしたらいいと思う?」
「うーん」
「だって、好きな人がいるって言ったんだよ。何でアリスじゃダメなのか、分かんない」
 延々と同じことの繰り返し。
 延々と続く愚痴だけれど、これはアリスのいい所。
 一人で勝手に話してくれる。私は口下手だからとっても助かる。
「あーあ、私もアンタみたいだったらこんな事で悩まなくてすむのにな。神様ってイジワルだよね。アリスとアンタってさ、同じ種族じゃないみたいじゃない?」
 アリスは馬鹿だ。
「アンタみたいな不細工だったら、アリス生きていけないよ」
 アリスは馬鹿だ。
「せめて、カワイイ服着てみたいって思わない?」
「あ、ホラ、私、アリスみたいに可愛くないし。似合わないしね。ね?」
「なーんだ、自覚あったんだー!」
 ……アリス、気付いてるのかな。アリスには私しかいないって事。
「それに、お金の為にウリやるとか無理だし」
「えー。思ったより楽だよ?験しにやってみる?」
「ね、知ってた?コウって私と付き合ってるんだよ?」
「え」
「一緒に住んでるの。信江と会うって言ったらあんま、いい顔されなかったけど、今日は暇だし、えっと、時計、時計……。ん、後三十分位なら付き合ったげるよ」
「え」
「その後、友達と会う予定あるんだー」
「でも、まだ十五分位しか経ってないし、それに、コウ君……」
「あーあ、私もアリスみたいだったらこんな事で悩まなくてすむのにな。神様ってイジワルだよね。私とアリスって同じ生き物じゃないみたいじゃない?」
「アリスみたいな馬鹿だったら、私生きていけないよ」
 私は馬鹿だ。
 こんな事で心が晴れ晴れとする。
「あ、あのね?アンタ……アリスの事、アリスのお姉ちゃんみたいに嫌いなの?」
「ううん。キライだったらわざわざ時間割いて会ってないし」
「あのね、アリスにはね、お姉ちゃんがいないといけないの。だけどアリスにはいないから、夢から覚める事が出来ないんだよ」
 ……アリスは時々何を言っているのか理解出来ない
「でもね、夢から覚めたらアンタとお別れしなきゃいけなくなるの。それは寂しいでしょ?」
 ……アリスは時々何を言っているのか理解出来ない。理解したくも無いけれど。
「それは、イヤだから、もう少し夢の中にいてあげるね」
 時計を見る。そろそろ時間。
「そういや、アリスには彼氏なんていないんだった!うん。だったらコウ君の事も納得」
 後、五分。
 信江はヤバイ。アタマがヤバイ。
 何を言っているのか理解出来ない。
 否、本当は理解出来てる。
「ね、信江、ここって不思議の国なの?」
 ……あ、変な質問。ストレート過ぎたかも。
「無理。それは無い」
 安心し――
「だって、違うんだよね?」
トラベルミン